障害のある子どもを育てるうえで親が最も心配なのは、「子どもが成人した後、あるいは親が高齢・死亡した後の財産管理や身上監護をどう確保するか」という点ではないでしょうか。未成年のうちは親権者として直接支援できますが、成人後は親子関係だけでは法的に十分な保護が及ばない場合もあります。
そこで注目されるのが生前対策や後見制度の活用です。
ここでは、障害のある子ども持つ親が生前対策や後見制度を使って将来に備えた事例について説明していきます。
障害のある子どもを「任意後見制度」で守る方法
障がいのある子どもであっても、意思能力がある(契約書の内容を理解し、自分の意思で署名・押印できる)場合は、本人を委任者として「任意後見契約」を結ぶことができます。
- 子を委任者、信頼できる第三者を受任者として契約
- 受任者は、将来子の判断能力が低下したときに備えて財産管理や生活支援を行うと定める
たとえば、子どもが未成年の場合でも、親権者の同意があれば子を委任者とした契約を結ぶことは可能です。子が成人してから改めて契約するケースも多いですが、早めに備えることで安心が得られます。
親を委任者とする任意後見契約
障がいのある子どものために、親自身を委任者とする方法も考えられます。この場合、契約書に「親が亡くなった後または認知症などで財産管理が難しくなったときは、任意後見受任者が親の財産から障害者の子に必要な生活費などを支出する」といった条項を盛り込んでおくのです。
- 親の死後に遺産を相続した際の管理・支出ルールを事前に定められる
- 親の意思能力が低下した時点から任意後見受任者の代理権が発動し、子の生活をサポートできる
任意後見のデメリット:取消権がない
任意後見人は、法定後見人に比べると権限が限定的です。契約書に書いていない行為は代理権が及びませんし、本人が勝手に行った不利益な契約を「取り消す」こともできません。この点が、障害の程度や今後のサポート内容によってはデメリットになる場合があります。
障害のある子どもを「法定後見制度」で守る方法
障害のある子どもがすでに意思能力を有していない場合、任意後見契約は結べません。こうしたケースでは、家庭裁判所に申立てを行い、法定後見(成年後見、保佐、補助)の利用を検討するのが現実的な選択肢となります。
後見人の選任方法
成年後見制度では家庭裁判所が後見人を選任します。通常は
- 親族
- 弁護士や司法書士などの法律専門家
- 福祉関係の専門家や法人
といった候補が検討されます。なお、申立人が希望する人物が必ず選任されるわけではない点に注意が必要です。
後見人の権限
後見人には以下のような強力な権限が与えられます。
- 代理権:被後見人(障害者の子)に代わって法律行為を行う
- 同意権:被後見人が行おうとしている行為に対し、同意・不同意を表明
- 取消権:被後見人が不利益な契約をしてしまった場合、これを取り消す
一方で、「財産を積極的に投資運用する」「相続税対策を講じる」といった行為には後見制度上の制約があり、柔軟性に欠ける面もあります。
障がいのある子を家族信託で守る方法
「家族信託」とは、大切な財産(不動産や預貯金など)を信頼できる家族に託し、障がいのある子など“守りたい人”を継続的に支えるための制度です。大まかな登場人物は次のとおりです。
- 委託者:財産を託す人(通常は親)
- 受託者:託された財産を管理・運用する人(多くはきょうだいや親戚など)
- 受益者:財産から生じる利益を受け取る人(障がいのある子を指定する)
家族信託では、法律行為を支援・代理できる受託者が財産を管理しつつ、その利益(家賃収入や売却益など)を障がいのある子に還元します。これにより、親が万が一認知症や死亡によってサポートが難しくなっても、財産を上手に活用して子どもの生活を守りやすくなるわけです。
家族信託が役立つ3つの理由
家族信託は、3つの理由から将来への備えとして役立つことが期待できます。
理由1:親の認知症リスクへの備え
親が認知症になってしまうと、たとえ障がいのある子どもがいても親名義の財産が凍結され、不動産の売却や預貯金の引き出しができなくなる恐れがあります。家族信託で早めに財産管理を受託者に移しておけば、親の判断能力が低下してもサポート体制を維持しやすくなります。
理由2:死後のサポート体制の確保
遺言書は親の死亡後にしか効力がありません。しかし、家族信託なら生前から死後まで継続的にサポートが可能です。障がいのある子に必要なお金を定期的に渡すルールなどを細かく決めておけるため、親がいなくなっても子どもの生活を支え続けられます。
理由3:柔軟な資産運用・管理
成年後見制度では、財産の“保全”が主目的のため、積極的な資産運用や相続対策が制限されがちです。一方で家族信託は、子どもの生活や将来の必要資金を考慮しながら、受託者が一定の範囲で管理・運用しやすいのが特徴なので、より柔軟な形で財産を活用できます。
障がいのある子どもを守るための複合的な対策を
障害者の子が安心して生活できるようにするには、後見制度だけでなく、生前対策全般を総合的に考える必要があります。たとえば、
- 家族信託:障害者の子を受益者とし、定期的に生活費を給付する仕組みを作る
- 遺言書:遺留分に配慮しながら、障害者の子に多めの財産を残す
- 死後事務委任契約:親が亡くなった後の葬儀や役所手続きを代理人に任せる
これらを組み合わせることで、親の存命中から死後に至るまでのサポート体制を一貫して整えることができます。
後見制度と生前対策で障がいのある子どもを保護した事例
ここでは、実際のケースを簡単にご紹介します。
事例の背景
- 親:高齢夫婦で障害のある娘(成年)と暮らしている
- 娘:軽度の知的障害があり自分で契約内容を完全に理解するのが難しい
ご夫婦は「将来、私たちが認知症や病気で動けなくなったらどうなる? さらに私たちが亡くなった後、娘を誰がサポートする?」と不安を抱えていました。
選択した対策
親御さん自身の年齢や娘さんの意思能力などを総合的に考慮し、後見制度と生前対策を複合的に活用する方法を選択しました。
後見制度
娘さんには部分的に意思能力があるとして、任意後見契約の活用を検討してみました。娘さんは、意思表示や署名がなんとかできる状態ではあったものの、親族や専門家の勧めで安定した保護を得ることを優先し、法定後見制度の利用を選択しました。
遺言書
親御さんは、他の子ども(娘さんの兄弟)と話し合ったうえで了解を得て、自分たちの財産を娘に多めに遺すことを遺言書に記載しました。
家族信託
一部の財産を信託財産にして、兄が受託者となり、娘への生活費支給を続けられる体制を構築しました。
これら複数の方法を複合的に活用した結果、将来的に娘さんの判断能力が大きく下がったときでも、法定後見人がサポートしつつ、財産運用は家族信託の枠組みで管理できるようになりました。
まとめ
障害のある子どもの将来を守るためには、任意後見制度と法定後見制度の特性をよく理解し、さらに家族信託や遺言、死後事務委任契約など適切な生前対策を組み合わせることで、より充実した環境を整えることができます。
障害のある子どもの将来に対する不安は尽きませんが、それぞれの制度を正しく理解・活用することで、親の存命中から死後まで一貫したサポートを確立することができます。
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