高齢になるにつれ、判断力や自分での意思決定能力が衰えていくことは、人間である以上どこかで直面する問題だといえます。このような状況への備えとして、家族信託や後見人制度(成年後見制度)といった生前対策を講じておくことはとても重要です。
しかし、これらの制度にはそれぞれ異なる特徴や機能があり、どちらが自分に適しているのか判断が難しいかもしれません。
本記事では、家族信託と後見人制度の違い、そしてそれぞれの「できること」について詳しく解説します。
家族信託と後見人制度の仕組みの違い
家族信託と後見人制度はどちらも、判断力を失った場合や高齢によって財産管理を他の人に任せる手段ですが、その仕組みは大きく異なります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
家族信託の特徴と仕組み
家族信託は、委託者(財産を預ける人)が信頼する家族に対して、信託契約に基づき財産の管理や運用を任せる制度です。
信託契約は、3者(委託者、受託者、受益者)間で結ばれる契約で、受託者(財産を管理・運用する人)が委託者の代わりに財産を扱います。
例えば、親が認知症になり判断能力が低下した場合、子供が受託者となり、親の財産を管理・運用していく形です。受益者は通常、親自身で、信託財産を利用して介護費用などを支払うことができます。
後見人制度の特徴と仕組み
後見人制度は、判断能力が低下した人を保護し、その生活や財産を管理するために設けられた制度です。
後見人制度は、「法定後見」と「任意後見」に分かれます。法定後見制度では、家庭裁判所の審判を経て後見人が選任されます。後見人は、本人の財産管理や法律行為の代行を行います。選任される後見人は通常、専門家(行政書士や弁護士など)が務めることが多いです。
任意後見制度では、本人が元気なうちに後見人を選び、公証人役場で公正証書として契約を結びます。後見人は、契約に基づき本人の判断力が低下した際に、その後見人に権限が移行する仕組みです。
家族信託と後見人制度で「できること」の違い
家族信託と後見人制度は、目的や範囲が異なるため、「できること」にも大きな違いがあります。具体的に何ができるのかを見てみましょう。
家族信託でできること
家族信託は主に財産の管理や運用を目的としています。受託者は以下のようなことが可能です。
受託者による財産管理や相続実務
家族内での財産管理: 信託財産を受託者が管理し、必要な支出を行います。
預金の引き出し: 銀行口座からの預金引き出しも可能です。
信託財産の売却: 不動産や株式などを売却し、現金化することができます。
信託財産を担保にした借入: 財産を担保にして借入を行うこともできます。
アパート管理や維持: 不動産の管理や修繕も行えます。
二次相続の指定: 受益者が死亡した場合、次の受益者を指定することができます。
このように、家族信託は財産管理や運用に特化しており、相続に関する柔軟な対応が可能です。
後見人制度でできること
後見人制度は、財産管理だけでなく、本人の生活全般を支援することが主な目的です。法定後見人と任意後見人では、できることに違いがあります。
法定後見人による代理業務
預貯金の管理や解約: 本人の名義の預金口座を管理し、必要に応じて引き出しも可能です。
自宅不動産の処分: 裁判所の許可を得て、不動産の売却ができます。
年金の受け取り: 本人名義の年金受け取り手続きを行います。
遺産分割手続き: 亡くなった場合、遺産分割手続きを行うことができます。
高齢者施設の入退所手続き: 施設への入所・退所手続きの支援ができます。
保険手続き: 保険の契約や解約手続きを代行できます。
入退院手続き: 医療機関への入院や退院の手続きを行います。
法定後見人は、本人が行った不適切な法律行為(例えば高額な商品購入契約など)を取り消すことができる点が特徴です。
任意後見人による代理業務
任意後見人も法定後見人と似たような業務を行いますが、契約内容により異なります。できることは次の通りです。
- 預貯金の管理や解約
- 自宅不動産の処分(裁判所の許可が必要)
- 年金の受け取り
- 遺産分割手続き
- 高齢者施設の入退所手続き
- 保険手続き
- 入退院手続き
任意後見人は、法定後見人と異なり、本人が行った法律行為を取り消すことはできません。これは、任意後見契約の際にあらかじめ設定された範囲内で活動するためです。
まとめ
家族信託と後見人制度は、どちらも高齢や認知症などで判断力が低下した場合に役立つ制度ですが、それぞれに特徴があります。家族信託は財産管理を中心に行うのに対し、後見人制度は生活全般にわたる支援を提供します。また、法定後見人は不適切な法律行為を取り消すことができるため、より広範囲なサポートが可能です。
どちらを選択するかは、本人の財産管理や生活の支援が必要な範囲、さらにはご家族の希望に応じて決めることが重要です。また、場合によっては両者を併用することも可能です。
家族信託や後見人制度について、詳しい情報が必要な場合は、専門家に相談し、自分に最適な方法を選ぶことをお勧めします。