生前贈与による財産移転や親からの資金援助には、何かと「贈与税」が絡みます。「いくらまで贈与しても大丈夫なのか」「みなし贈与ってどういう場合?」「相続時精算課税の制度って何?」こうした疑問を抱える方は多いでしょう。
特に、贈与税には年110万円の基礎控除や相続時精算課税制度、配偶者控除など複雑な特例があり、不動産などの大きな財産を贈与する際には必ず検討が必要です。
ここでは、贈与税が課せられる財産や課せられない財産、みなし贈与の具体的ケース、贈与税などの課税関係について説明していきます。
贈与税が課せられる財産
贈与税が課される財産のうち、「本来の財産」に該当するものは以下のような典型例があります。
- 現金・預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 動産(骨董品や貴金属など)
- 有価証券(株式・債券など)
いずれも「無償で譲渡された財産」として、基本的に受贈者に対して贈与税が発生する可能性があります。
みなし贈与財産
本来贈与したつもりがなくても、法律上「みなし贈与」と扱われ贈与税が課されるケースがあります。例えば以下が該当します。
借金の免除・肩代わり
親族や知人に借金返済を肩代わりしてもらった場合、返済負担を免れた分が贈与とみなされる
低額譲渡
時価より著しく安い価格で売買したとき、差額部分が受贈者の利益として贈与税対象
定期給付契約の権利(個人年金保険など)
他人が掛金を負担していた年金保険契約を引き継いだ場合など、給付を受ける権利が贈与とみなされる
生命保険金
他の人が保険料を負担し、受取人が保険金を受け取った場合に「保険金を無償で得た」と評価される
親族間の借金
書面で利息や返済計画を明確にしていないと、実質的に返済不要とみなされ、贈与と判定される
贈与税がかからない財産
一方、下記のような財産・経済行為は贈与税の課税対象外となります。
法人から個人への贈与
贈与税ではなく所得税として課税対象(給与所得や一時所得)
日常生活費や教育費の範囲内
扶養義務者(両親や祖父母など)から生活費や学費として受け取る範囲内なら贈与税非課税
奨学金
一定の要件を満たす特定公益信託等からの奨学金は非課税
障害者の信託受益権
特別障害者扶養信託契約で得た信託受益権(最大6,000万円まで)など
相続開始の年に被相続人から贈与された財産
相続税対象になる
香典・お歳暮・お中元など社交上必要な範囲
一般常識的な贈答品は贈与税非課税
離婚に伴う慰謝料・財産分与
実質的には婚姻費用清算として扱われるため贈与税はかからない
贈与税の計算方法
贈与税を計算するうえで知っておきたいのが、以下の特例です。
暦年課税と基礎控除
贈与税は1月1日~12月31日の間に贈与された財産の合計額(課税価格)で計算し、受贈者1人あたり年間110万円までの基礎控除があります。
- 税額の計算式:
- (1年間の贈与額 合計)- 110万円 = 基礎控除後の課税価格
- 上記に贈与税率をかけ、控除額を引いて確定
特例税率と一般税率
直系尊属(両親・祖父母)から18歳以上の子・孫へ贈与された財産については「特例税率」が適用され、それ以外の場合は「一般税率」が適用されます。(2024年改正により年齢要件が18歳に)
- 特例税率速算表(主要区分)
- 基礎控除後の課税価格が200万円以下:税率10%
- 200万円超~400万円以下:税率15%(控除10万円)
- 400万円超~600万円以下:税率20%(控除30万円)
…中略… - 4500万円超:税率55%(控除640万円)
- 一般税率速算表(主要区分)
- 200万円以下:税率10%
- 200万円超~300万円以下:税率15%(控除10万円)
- 300万円超~400万円以下:税率20%(控除25万円)
…中略… - 3000万円超:税率55%(控除400万円)
贈与税の配偶者控除
配偶者に居住用不動産やその取得資金を贈与するときは、夫婦が20年以上の婚姻関係にあり、実際に贈与を受けた者が住むための住宅であれば、贈与税の配偶者控除(2,000万円)を受けることができます。
- 適用要件
- 婚姻期間が20年以上経過してからの贈与
- 不動産が居住用か、その取得資金であること
- 申告期限(翌年3月15日)までに実際に住み続ける見込み
- 過去に同じ控除を使っていない
控除の仕組み
贈与税の配偶者控除は、基礎控除110万円+2,000万円=最大2,110万円まで非課税になるということです。2,000万円を超える贈与の場合、残額部分だけに贈与税が課されます。
相続時精算課税制度
相続時精算課税とは、生前に財産を贈与されたとき一旦20%の贈与税で課税し、贈与者が亡くなった時点で、それまでの贈与財産を相続財産に合算して相続税を再計算し、実質的に精算する仕組みです。
- 特別控除2,500万円があり、その範囲内なら当初の贈与税が0円になる
- しかし、最終的には相続時に合算して課税されるため、相続税負担が増える可能性も
利用条件
- 贈与者:60歳以上の親または祖父母(贈与した年の1月1日時点)
- 受贈者:18歳以上の子または孫(2024年以降の要件)
- 選択の不可逆性:いったん相続時精算課税を選ぶと撤回できない
計算例
1年間で3,500万円の贈与を受けた場合について考えてみましょう。
- 3,500万円 - 2,500万円(特別控除)= 1,000万円
- 上記1,000万円× 20%= 200万円(贈与税額)
※贈与者が亡くなった時には、贈与された3,500万円を相続財産に合算して相続税を計算し、過去に支払った贈与税(200万円)を差し引きます。
令和5年(2024年)度法改正
令和5年(2024年)度には、相続税法及び租税特別措置法の一部が改正されました。
特に、受贈者の年齢要件が18歳に引き下げられるなど、家計への影響が大きい改正が含まれることに注意しましょう。
従来の制度では、被相続人の死亡前3年以内の贈与財産は相続財産に合算されていましたが、2024年改正においては、この加算期間を段階的に5年~7年程度延長することとなりました。
影響
加算期間が延びれば、生前贈与してから数年経っていても贈与分が相続時に合算されることになります。一方で、法改正にともない、生前贈与の自由度が下がる部分もある一方、若年世代への支援がしやすくなる面もあります。
大切なのは、施行タイミングや改正内容を正しく把握し、贈与税や相続税の一体計算を意識したうえで財産移転を計画することだといえるでしょう。今後の追加情報も随時チェックしながら、税理士や行政書士などの専門家と連携し、最適な時期と方法で贈与を実行することが望ましいと考えられます。
まとめ
贈与税は非常に多岐にわたる制度があり、みなし贈与や非課税枠、配偶者控除、相続時精算課税制度など、正しく理解しないと後で思わぬ税負担が発生しかねません。
贈与は相続対策や事業承継、親族援助などの場面で大きな意味を持ちますが、税負担を最小限にしようとするなら制度を正しく活用し、専門家(税理士・行政書士など)へ相談するのが安全です。複雑な非課税特例を知らずに行った結果、高額な贈与税を支払う事態にならないよう、生前にきちんと計画を立てて検討してみましょう。
弊社では無料相談をご用意しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。