高齢化に伴い、認知症になったときや相続が起こったときに備えて家族信託の準備をしておこうと考え始める人は少なくありません。費用節約のために、家族信託を専門家に依頼せず自分でやろうとするケースも多いようです。
ここでは、家族信託契約を自分でやるときの準備・作成方法・注意点について説明していきます。
家族信託とは
家族信託とは、「委託者」が信頼できる「受託者」に「信託財産」の管理・処分・運用を任せ、その利益を「受益者」が享受する民事信託の一形態です。
たとえば、以下のような状況下で利用されることが多い方法だといえます。
-
- 認知症対策(資産凍結の防止)
- 二次相続対策(配偶者死亡後の資産配分を指定)
- 共有不動産の賃貸・売却管理
- 障がい児の生活費確保
成年後見より自由度が高く、生前から機能するという点で遺言に勝る点がメリットになってきます。
家族信託を自分で進めるための3大準備
家族信託を自分で進めるためには、慎重な準備が必要です。ここでは、3つのカテゴリに分けて「やっておくべき準備」を整理していきます。
【準備1】家族信託の目的を具体化する
家族信託契約を自分で行う場合は、慎重に受託者を選び、信託財産を正しく報告し、綿密な計画に沿って丁寧に具体化していくことがとても重要です。
また、どのような設計を行い家族信託で何を守りたい・成したいのか、そのためにはどのような準備が必要かなど、目的をできるだけ具体化することも大切です。
【準備2】家族信託の適切な受託者を選ぶ
契約や取引において、受託者にはその立場に応じた適切な行動や対応が求められ、責任をもって委任された業務を遂行しなければなりません。これを善管注意義務といいます。
受託者は善管注意義務を負いますので、当然ながら信託財産や金銭の出入りも管理することになります。安易に選任するとトラブルのもとになることもありますので、適切な人物を慎重に選びましょう。
受託者を選ぶ際の基準
受託者を選ぶ際の基準として、次のような点に留意するといいかもしれません。
- 家計簿管理経験や確定申告経験があるか
- 受託者としての業務を遂行できる時間的余裕があるか
- 他の相続人との利害衝突リスクはないか
- 受託者の高齢化や死亡に備え「予備受託者」を契約条項に明記する必要はあるか など
【準備3】信託財産を整理する
家族信託できる財産とできない財産がありますので、以下を参考に信託財産のリストアップと必要な手続きなどについてあらかじめ確認しておきましょう。
信託できる財産
- 現金・預貯金:信託口座に移管して管理する
- 不動産:信託登記を行う(登録免許税4%が発生)
- 上場株式:信託専用の信託口口座が開設可能か確認する
信託できない財産
借金など:マイナスの財産は信託できない点に注意
預金:預金を引き出す権利(預金債権)は委託者にあり譲渡禁止である
年金受給権:年金は一身専属の権利であるため信託できない
条件をクリアしなければ信託できない財産
農地:農地法による許可が不可欠であるため困難を伴うことが多い
家族信託契約書を自分で作成するための手順
信託契約書は法的効力を伴う文書ですから、自分で作成する場合は家族信託関連法案をよく調べ、どのように作文すべきか見本を参考にし、さらに自身のケースに合った契約書として完成させる過程が欠かせません。
決して簡単な作業ではありませんので、以下の手順を参考にしながら丁寧に作り上げていきましょう。
後から無効とされないためにも、できるだけ専門家への依頼あるいは相談をおすすめします。
【手順1】設計シートを作成する
設計シートを作成する際のポイントは次の通りです。
- 委託者/受託者/受益者の基本情報を明確にする
- 目的・信託期間・分配方法を明確にする
- 受託者報酬・経費負担ルールを明確にする
【手順2】契約書の下書きを作成する
信託契約書の下書きを作成します。
市販のひな形は雛形は「信託監督人」「帰属権利者」など必須条項が抜けていることがあるので、注意して用紙を選びましょう。ひな形を入手したら、必要事項をもれなく記入していきます。
【手順3】下書きした契約書を公正証書にする
公証役場に予約を取り、下書きとして完成させた信託契約書を公正証書にします。信託契約書を公正証書にすることで、客観的な証明力が非常に高くなります。
公証人手数料はページ数と財産額で変動しますので、事前に公証役場に問い合わせるなどして確認しておきましょう。
【手順4】信託不動産の名義変更と信託口口座の開設を行う
家族信託契約書が完成したら、信託不動産の名義変更と信託口口座の開設を行いましょう。
不動産の名義変更には司法書士の支援を得ることをおすすめします。また、信託登記申請書の提出と登録免許税の納付が必須です。
【手順5】契約発効後の予定を確認する
家族信託契約が発効したら、以後の予定についてあらためて確認していきましょう。受託者は信託財産目録を作成し毎年更新する必要があります。また、重大な支出や資産売却時には家族会議議事録を作成します。
家族信託にかかる主な手数料・費用
かかる金額は信託財産の額に左右されますので、事前に各費用の見積りを取ったうえで資金繰りを行っておきましょう。
公正証書作成にかかる費用
- 公証人手数料
- 謄本費用
(契約ほか法律行為に係る手数料は、「目的の価格」に応じて定められた金額が適用)
信託登記にかかる費用
- 登録免許税
- 司法書士報酬
信託口口座開設にかかる費用
- 無料から数万円、10万円など幅あり
このほか、専門家に相談する場合は相談料がかかることがあります。
当行政書士法人では初回30分無料相談を受け付けています。
信託法が定める「1年ルール」と「30年ルール」
信託法では、いわゆる1年ルールと30年ルールが定められています。それぞれどのような定めか確認していきましょう。
1年ルール(信託法163条)
受託者が欠けた状態、あるいは受託者=受益者の状態が1年継続すると信託は当然終了します。信託終了を回避するためには、信託契約書作成時に「予備受託者」「法人受託者への移行条項」を盛り込んでおくことが大切です。
30年ルール(信託法91条)
受益者連続型信託では、設定から30年超え後の承継は1回限りです。世代を越えて資産承継したい場合は30年を一区切りに再設計が必要です。
自分で家族信託をやる際の5つのリスク
多くの場合、費用節約のために自分で家族信託をやろうと考えるケースがみられますが、専門家が関与しないことによるリスクについても知っておかなければなりません。
1.登記ミスによる無効が起こりやすい
信託目録の目的欄に具体性が欠けていた場合、法務局による補正命令が出ることがあります。
2.税務調査で否認判定されやすい
名義変更時に贈与と認定された場合、暦年贈与控除超過分に課税されるケースがみられます。税務調査で申告内容を否認されるリスクに注意しましょう。
3.受託者の暴走への対応が難しい
たとえば信託財産に不動産が含まれていた場合について考えてみます。受託者が無断で不動産を売却し、その利益を私的流用した場合は受益者が損害賠償請求しなければなりません。
4.家族関係が不穏にならないための対応が難しい
帳簿など財産内容や金銭の出入りについての情報を共有しておかないと、家族関係が不穏になる可能性が出てきます。
5.家族信託ルールの見落としが起こりやすい
たとえば「1年ルール」を失念して家族信託契約を開始してしまった場合、早々に信託が終了し将来計画が頓挫してしまう恐れがあります。
家族信託は専門家に相談を
家族信託を自分でやる場合、家族信託に関する法律や慣習、かかる費用や手間などについて十分下調べを行い、専門家に相談しながら設計した通りの将来を迎えられるかどうか確認することも必要です。
専門家への依頼にはお金がかかりますが、家族信託という重大な法的行為を自分でやって失敗してしまうと、金銭のみならず将来設計そのものに大きな影響を及ぼしてしまいます。必要経費と割り切って専門家の力を借り、安心できる信託契約を成立させる選択肢も検討してみましょう。
当行政書士法人では司法書士や税理士などと連携し、家族信託の設計から公正証書化、登記や税務までワンストップでサポートしています。初回30分無料相談もありますので、ぜひお気軽にご連絡ください。