高齢化が進む現代社会では、自分の判断能力が低下したときに備えて後見制度を活用する方が増えています。そのなかでも、本人が元気なうちに自分で後見人を選び、財産管理や身上監護の範囲を指定できるのが任意後見制度です。
ここでは、任意後見制度における後見人の役割や業務範囲などについてわかりやすく説明していきます。
任意後見契約の特徴
元気なうちは自分自身で生活維持と財産管理を行い、判断能力が衰えた段階で任意後見契約に切り替えることで、任意後見人からのスムーズなサポートを受けることができるでしょう。
元気なうちに行う生前対策
たとえば、本人が元気なうちは自らの生活を維持し財産を管理することもできますし、1人での生活が不安な場合は、見守り契約や財産管理契約を締結しサポートを獲得する(定期的な訪問、家計管理のアドバイスなど)ことも可能です。特に、見守り契約などを締結しておくと、いざ体調が悪化したとしても、契約相手が状況を把握しやすいでしょう。
判断能力低下後の生活を自ら保護する手続き
一方、いざ判断能力が低下し日常生活に支障が出る状況になった場合は、あらかじめ締結していた任意後見契約にもとづき家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。そして、契約内容に沿って、任意後見人が財産管理・身上監護を正式に引き継ぐのです。
任意後見制度の仕組み
人は年齢を重ねるにつれ、認知症や脳梗塞後遺症などで判断能力を失う可能性が高まります。その状態になってから法定後見(成年後見制度)を利用する場合、裁判所が選任する後見人が誰になるかわからず、本人や家族の希望を十分に反映できないリスクがあります。
任意後見契約であれば、元気なうちに信頼できる任意後見人を自分で選べるのが最大の特徴です。
任意後見人になれる人
任意後見人は、法律の専門家でなくても就任することが可能です。たとえば、子どもや親族、友人など、本人が信頼する人であれば資格要件はありません。ただし、次のような点を考慮しながら慎重に決めるのが望ましいといえます。
- 財産管理能力があるか
- 長期的にサポートしてもらえるか
- 家族や親族との関係に問題はないか
専門家を任意後見人とするメリット
行政書士や司法書士など法律の専門家であれば、財産管理や法律手続きに精通していますし、公平公正な第三者であることから家族間でのトラブルを回避しやすいといえます。また、他の生前対策や死後事務の備えを行っておけば、いざというときの連携もスムーズです。
専門家を任意後見人とするデメリット
専門家への依頼には一定の報酬が必要です。また、事前相談などを通して、自分と相性の良い専門家または親身になってくれる専門家を探す必要があり、これには時間がかかることもあります。
任意後見人ができること
厳密には本人と交わした契約内容によりますが、任意後見人の仕事は主に以下の2つに分けることができます。
財産管理
- 預貯金・株式・不動産などの管理
- 年金の受け取りや各種支払い手続き
- 不動産の賃貸契約や修繕手配、売却など
身上監護
- 本人が適切な住居や施設で暮らせるよう手配
- 入院や医療費の支払い、介護保険サービスの利用契約
- 法的手続き(遺産分割協議や相続放棄など)で代理
任意後見人ができないこと
任意後見契約は、将来の認知症リスクなどに備えて財産管理や身上監護を第三者(任意後見人)に依頼する制度です。しかし、任意後見人が「何でも代理できる」わけではありません。実際には、契約対象外となる業務が存在する点を認識しておく必要があります。
任意後見人が行えない具体的な行為
次のような行為は、任意後見人が「できない行為」に該当します。
介護(料理・入浴介助・掃除などの事実行為)
- 任意後見人は法律行為の代理人であり、身体介護そのものは業務範囲外
本人にしかできない行為
- 婚姻や離婚、遺言作成など、本人の意思表示が必須で第三者が代行できない
日常生活上の行為(物品の購入など)
- 日用品を買うなど日常的な意思決定は、原則として本人が行うことになる
保証行為
- 任意後見人が本人に代わって第三者の借金を保証することは基本的に認められない
【家族が任意後見人となる場合】
もし家族が任意後見人に就任しても、「任意後見人として」上記業務を行うことはできません。ただし、家族として個人的に料理や掃除などをすることはできます。任意後見人としてこれらの行為を行うのか家族として行うのか、はっきりとした線引きをすることは簡単ではないため、できれば専門家に任意後見人の業務を依頼した方がいいでしょう。
任意後見契約を利用するメリット
任意後見契約を利用する主なメリットを以下にまとめました。
元気なうちは自分で財産管理ができる
任意後見契約では、判断能力に問題のない間は本人が主体的に財産を管理できます。ただし、将来的に認知症や脳梗塞などで判断能力を失うリスクに備え、あらかじめ「どんな業務を任意後見人に任せたいか」を契約で明確に定めておきます。
- 本人の意思を尊重: 元気な間は今までどおり自分で預貯金を管理・運用できる
- いざというとき: 判断能力が低下したら任意後見人がスムーズに業務を受け継ぐ
契約発効は「本人の判断能力が低下した時点」に限られる
任意後見人が本格的に活動を始める(=契約が発効する)のは、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した段階です。選任申し立てを行うのは、任意後見人や本人、親族などが想定されます。
- 本人の判断能力が保たれている限り、任意後見契約は発効しない
- 後見監督人が選任されて初めて、任意後見人は法的な代理権を行使できるようになる
契約は公正証書で残せる
任意後見契約は、公正証書として作成しておくことで、本人の意思に基づく契約内容が明確に証明されます。これにより、次のことが可能になるでしょう。
- 任意後見人は本人の希望通りに財産管理や身上監護を進められる
- “もしも”の段階で関係者が契約書の内容を確認し、混乱や争いを回避できる
委任事項の公的証明が可能である
公正証書化することで、どの業務を任意後見人に委任するかが公的に証明されます。これは後から「そんなこと頼んでいない」という紛争を避けるうえで非常に有効です。
法的手続きも委任できる
もし本人が相続人になる立場であるにもかかわらず判断能力を失ってしまった場合、遺産分割協議への参加や相続放棄などの手続きが難しくなります。しかし、任意後見人を選任しておき代理権を付与しておくことで、法的手続きを代行させることが可能です。
本人のための財産処分も委任できる
たとえば本人が長期入院し、医療費が必要になったケースについて考えてみましょう。あらかじめ任意後見人に財産処分の権限を与えておけば、不動産や資産を売却して入院費を捻出できるようになります。結果として、判断能力が低下した本人を守るために迅速な対応が可能となるのです。
任意後見契約は本人存命中のみ有効
任意後見契約は、本人が生きている間しか効力を持ちません。したがって、本人が亡くなった時点で契約は終了し、それまで任意後見人が進めていた事務は相続人へ引き継がれることになります。
本人の死後の各種手続きをも任意後見人に行ってもらいたい場合は、「死後事務委任契約」を別途結んでおく必要があります。さらに、任意後見契約の公正証書に死後事務委任契約に関する条項を加えておけば、万が一に備えた一貫したサポートが実現しやすくなります。
まとめ
当行政書士法人では、任意後見契約や死後事務委任契約など、生前対策全般にわたるサポートを行っています。 「自分の老後に備えて何をどう準備すべきかわからない」「親や家族のために移行型任意後見契約を考えている」といった疑問・不安がある方は、ぜひ無料相談をご利用ください。経験豊富なスタッフが最適なアドバイスや契約書作成を支援し、皆様の大切な財産と暮らしを守るお手伝いをいたします。