障害を抱えた子の将来の生活や相続を考えたとき、「財産を生前贈与しておいたほうが良いのか?」と悩むことは珍しくありません。特に、不動産をどう扱うかは大きな問題で、相続税対策も考慮しながら「今のうちに贈与しておくのか」「特定の制度がないか」などを検討する必要があります。
ここでは、障害者の子に生前贈与したいときに役立つ「特定贈与信託」のしくみと活用方法などについて説明していきます。
障害者の子への生前贈与と節税
「生前贈与」は、自分がまだ元気なうちに子や孫などに財産を贈る方法です。通常、相続より贈与の方が税率は高いといわれますが、非課税枠や優遇措置をうまく利用することで、節税できることができます。たとえば、下記のような制度が代表的です。
暦年贈与
- 1年間(1月~12月)に贈与される財産が110万円以下なら非課税
相続時精算課税制度
- 2,500万円まで生前贈与時の贈与税が非課税(ただし相続発生時に贈与財産が相続財産に加算され相続税を納める)
障害者への贈与に対する非課税特例
- 「特定障害者扶養信託契約」を結ぶことで、最大6,000万円まで贈与税が非課税(特別障害者の場合)
障害者への贈与と「特定贈与信託」
障害のある子がいる家庭では、将来の生活保障を考え、生前贈与で財産を渡しておきたいというニーズが高いといえます。
このようなケースで注目されるのが「特定贈与信託」です。特定贈与信託、財産を信託会社などに信託して障害者の受益者に定期給付させる仕組みで、贈与税にかかわる特別な非課税枠(最大6,000万円)を適用することが可能なものです。
特定贈与信託の概要と仕組み
特定障害者扶養信託契約(以下「特定贈与信託」)は、親や祖父母などの贈与者(委託者)が信託銀行などの受託者へ財産を信託し、障害者(受益者)に対して一定の給付を行う契約です。目的は、障害者の生活費や医療費を長期的にサポートすることであり、国税上の非課税特例が設けられています。
【制度利用の主な要件】
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- 受益者が「特別障害者」または「特定障害者」に該当すること
- 信託財産が金銭・有価証券など“換金可能”な財産であること
- 障害を持つ子の生活や治療費のために給付が行われるよう設計すること
特別障害者と特定障害者の区分
「障害者」は特別障害者と特定障害者の2つに大きく分けることができます。
特別障害者(非課税枠6,000万円)
- 1級の精神障害者保健福祉手帳を持つ人
- 1級または2級の身体障害者手帳を持つ人
- 戦傷病者手帳の特別項症~第3項症まで
- 原爆被爆者として厚生労働大臣の認定を受けている人
- 寝たきりで複雑な介護を要する人(6か月以上)
- 満65歳以上で上記に準じる障害認定を受けている人
特定障害者(非課税枠3,000万円)
- 知的障害者
- 精神障害者保健福祉手帳を持つ人(特別障害者以外)
- 満65歳以上で上記に準ずると認定された人
- ただし、特別障害者以外の中軽度障害に該当
特定贈与信託で不動産はどう扱えるか
特定贈与信託の対象財産は金銭や有価証券、金銭債権、立木や賃貸不動産など“現金化・収益化可能なもの”に限定されます。自宅のように収益を生まない不動産は、取扱い金融機関によっては対象外となるがあることに注意しましょう。
- 賃貸不動産:家賃収入が見込めるため、信託会社が受託する場合がある
- 自宅不動産:収益性がないため、信託銀行などに断られることが多い
自宅不動産を信託財産に含めるには
自宅不動産を含めた信託が可能かどうかは、金融機関ごとに対応が異なります。一般に、自宅が収益を生まない以上、金銭や他の収益性財産もあわせて信託しないと契約を受け付けない金融機関もあります。
対策としては、自宅不動産を単体で信託財産にするのではなく、金銭や有価証券と一緒に信託する構成を作ることだといえそうです。
特定贈与信託の利用方法
特定贈与信託を利用するための手続きについて整理しておきましょう。
必要書類と提出期限
特定贈与信託を利用するには、受託者(信託会社など)を通じて「障害者非課税信託申告書」を税務署に提出します。
提出期限
- 信託される日までに管轄税務署長宛に提出
添付書類の例
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- 特定障害者扶養信託契約書の写し
- 障害の程度を証する書類
- 信託財産の評価額とその利益計算書
受益者(障害者)への給付
契約が成立すると、信託会社は信託財産から障害者の生活費・介護費などを定期給付する形を取ります。金銭管理や運用リスクなどもあるため、金利変動や元本割れリスクを考慮して商品を選ばねばなりません。
受益者(障害者)死亡時の残余財産処理
障害者(受益者)が亡くなった場合、残った信託財産は相続人などが受け取ることになります。信託契約締結時に「最終帰属権利者」を指定し、残余財産が誰に渡るか決めておく必要があります。
特定贈与信託で知っておきたい注意点
特定贈与信託は上手に活用すると大変メリットの高い方法ですが、以下のような注意点があることにも留意しておきましょう。
1.長期間の契約拘束がある
特定贈与信託は障害者が死亡するまで続くことが多く、途中解約や変更は容易ではありません。また、非課税制度の利用には厳格な要件があり、追加融資や契約変更は比較的難しいとされています。
2.金利変動・運用リスクがある
信託会社に資産運用を任せる以上、商品の選択によっては元本割れの可能性があることを理解しておきましょう。運用方針やリスクを事前に確認し、できるだけ安定的な商品を選ぶのが望ましいといえます。
3.生活費以外の用途に使えない
特定贈与信託の給付金は、障害者の生活・治療・介護などに充当することを目的としています。受益者が贅沢な娯楽や投資に資金を使わないよう、管理は厳格でなければなりません。
4.自宅不動産を信託する難しさがある
収益を生まない不動産(自宅)だけでは信託会社が契約を受け付けないことが多いとされています。どうしても自宅を信託財産に含めたい場合、他の収益物件や金銭を合わせて検討する必要がありそうです。
5.相続への影響を考慮する
「特定贈与信託による財産給付」以外にも相続財産が残る場合は、相続税計算時に総合的な検討が必要になるでしょう。別途遺言書を作成しておかなければ、他の子どもや相続人との調整がつかず揉める可能性も廃除できません。
まとめ
障害者の子に不動産を生前贈与する際には、税制面の優遇を受けられる「特定贈与信託」の活用を検討してみるといいかもしれません。特定贈与信託を利用することで、最大6,000万円(特別障害者の場合)の非課税枠が得られ、障害者の生活や治療・介護のための給付金を安定的に確保できます。
一方で、不動産を信託する場合は「自宅不動産のみでは契約が難しい」「収益物件なら可」など取扱いが複雑な場合がある点に注意が必要です。
不動産をどの程度信託できるか、金利変動や契約期間中の管理など、判断すべき要素は多岐にわたります。さらに、不動産贈与には多様な税金が絡み、相続時の調整も必要となるため、誤った手続きで思わぬトラブルを招く恐れもあることから、専門家への相談も必要になってきます。
当行政書士法人では、障害者の家族を持つ方の生前贈与や家族信託、相続対策などについて、多方面の専門家(行政書士・司法書士・税理士など)と連携しながらサポートを行っています。特に障害者の将来と暮らしを守るための財産管理は、法的要件や税金計算が複雑ですので、まずは無料相談をご利用ください。あなたの状況に合わせた最適なプランをご提案いたします。










