家族信託は、認知症対策や相続対策として注目されており、財産管理を信頼できる家族に任せられる柔軟な制度です。しかし一方で、万が一、受託者が財産を使い込んだらどうすればよいのか、という不安の声も少なくありません。
そのようなトラブルを回避するために、信託監督人を指名しておいて受託者の財産管理を客観的に監視し、使い込みを未然に防ぐ対策が採られることもあります。
ここでは、家族信託の使い込みリスクと対策、発覚時の対処方法について説明していきます。
家族信託に潜む「使い込みリスク」
家族信託では、委託者が「もっとも信頼できる人」を受託者に選ぶのが一般的です。多くの場合、子どもや親族が受託者となり、日常的に財産を管理します。
しかし、受託者となる人は必ずしも財産管理の専門家ではありません。大きな預貯金や不動産を一手に任されたことで、魔が差してしまうことも皆無ではないのです。
- うっかり自分の口座と混同して使ってしまう
- 出来心から金銭を私的に流用してしまう
身内だからこその甘えが生じ、管理義務を軽視してしまうリスクも考慮すべきです。
受益者が高齢者や判断能力が弱い場合は注意
家族信託を活用する背景として、受益者が高齢だったり認知症のリスクがあったりするケースが多く見られます。そうした受益者は、受託者が正しく管理しているかどうかを自力で十分にチェックできない場合が少なくありません。そのため、仮に受託者が不正行為をはたらいていても、長期間発覚しない恐れがあります。
受託者に課せられた義務「信託法による法的責任」
信託契約に基づいて財産を託された受託者は、法律上の義務を負っています。これは、信託法によって厳格に規定された法的義務です。
| 義務名 | 内容 | 法的根拠 | 違反時の対応 |
| 忠実義務 | 受益者(利益を受ける人)の利益を最優先に行動する義務 | 信託法30条 | 損害賠償請求や解任 |
| 善管注意義務 | 専門家並みの注意を払って財産を管理する義務 | 信託法29条 | 上記同様、責任追及可 |
| 分別管理義務 | 自分の財産と信託財産を明確に区分して管理する義務 | 信託法34条 | 混同があれば違反 |
例えば、受託者が信託財産を自分の口座に移して生活費に使ったり、受益者のためと称して勝手に資産を動かしたりすることは、すべてこれらの義務に反します。
受託者が使い込みしやすい典型パターン
受託者が財産を使い込んでしまうのには、「受託者に財産管理が任されており監視の目がない」という点にあるといっていいでしょう。以下のようなケースには特に注意が必要です。
受託者による使い込みが疑われるケース
以下のような状況が確認できた場合、信託財産が適正に使われていない可能性があります。
【使い込みが疑われるケース】
- 信託専用口座を使わず、受託者の個人名義口座で資金を管理している
- 財産の処分(不動産売却など)後の代金が、使途不明になっている
- 他の相続人に対して帳簿や残高の報告をしていない
- 受託者の金遣いが急に荒くなった
受託者による使い込みを早期発見するチェックポイント
以下のようなチェック項目を設け、受託者の行動を定期的に確認することで、不正やミスを早期発見できる可能性が高まります。
【家族信託のチェックリスト】
- 【✔】信託専用口座の残高や入出金記録を定期的に確認しているか
- 【✔】受託者から年次報告書や簡単な会計報告があるか
- 【✔】不動産の名義が「受託者名義+信託目的」で登記されているか
- 【✔】法律の専門家が第三者として契約時に関与しているか
- 【✔】信託契約書に「帳簿閲覧請求権」「信託監督人の設置」が明記されているか
受託者の使い込みが発覚したときの対応方法
受託者による使い込みが発覚した場合、法律の専門家に相談し、早急かつ適切に対応することが重要です。
【1】証拠の確保
まずは通帳・キャッシュカード・取引明細などをコピーし適切に保管しましょう。また、不動産登記簿の名義状況を確認し、変動がないか調べることも大切です。
【2】専門家への相談
信託専門行政書士や弁護士など法律の専門家に相談し現状について情報共有しましょう。適切な対応方法について助言を受けることができます。罪に問うようなケースでは弁護士への相談が適切です。
【3】受託者に対する正式な通知送付
受託者に対して、内容証明郵便で「帳簿閲覧請求」「不正行為の停止要求」などを送付します。
【4】受託者の解任手続き
家族信託契約にしたがい新たな受託者を任命するか、信託法59条にもとづき管轄の家庭裁判所に「受託者解任申立て」を行うかを決定します。
【5】損害賠償・刑事告訴
不正額が大きい場合は民事上の損害賠償請求が可能になったり、状況により業務上横領罪などの刑事責任を追求したりできる場合もあります。
受託者の使い込み防止には信託監督人の選任を
信託監督人とは、受託者の財産管理や信託業務が適切に行われているかを監視・チェックする第三者機関または人物のことです。信託法上、信託監督人の選任は任意とされていますが、受益者が判断能力を失った場合や受託者の使い込みを防ぎたい場合は、非常に重要な役割を果たします。
信託監督人の選任が必要な理由
以下の理由から、家族信託で受託者の使い込みを防止するために信託監督人の選任が強く推奨されます。
受託者は「チェックされなければ暴走するリスク」がある
受託者は、財産の管理・運用・処分など、広範な権限を持ちます。そのため、監視の目がないと、「誰も見ていないから」と不正やずさんな管理が起こりやすいといえます。
受益者が高齢・認知症だと自分でチェックできない
家族信託では、認知症対策として親(委託者兼受益者)が自分の財産を信託するケースが多く見られます。しかし、本人が判断能力を失った後は、受託者の行動を誰も監視できなくなってしまうので、本人の代わりの監視役として信託監督人を設置するのです。
信託監督人がいれば「抑止力」になる
信託監督人がいること自体が、受託者にとってのプレッシャーや抑止力になります。「不正をしても誰も気づかない」という状況を避けられるため、不正の未然防止に効果的です。
【事例】使い込みリスクに備えて信託監督人をつけたケース
使い込みのリスクを回避するために、あらかじめ信託監督人を指定した事例について説明していきます。当該信託契約の主な情報は次のとおりです。
- 家族構成: 母親・長男・長女の3名(父はすでに他界)
- 長女: 知的障害があり、母親がこれまで生活全般を支えてきた
- 父の遺産: 預貯金が十分に残されており、当面の生活費には問題がなかった
ところが、母親自身も高齢となり、物忘れがひどくなるなど健康面に不安が出てきました。将来的に認知症を発症するリスクもあり、知的障害を持つ長女のケアが思うようにできなくなるのでは、と心配するようになったのです。
家族信託導入の決断
そこで母親は、「判断能力がしっかりしているうちに実家を売却し、得た資金で自分は施設へ入り、長女の生活費を確保したい」と考えました。夫が残した財産を家族信託で管理し、次のような仕組みを作ろうとしたのです。
- 自分が元気なうちは受益者として財産を使いながら生活
- 万が一、認知症などで判断能力を失ったら受託者に管理を任せる
- 最終的には長女の生活費が途絶えないよう、母の死後も継続的に財産を供給できるようにする
子の使い込みに不安も
しかし、母親が最も不安視していたのが長男の金遣いでした。兄妹の仲は良いものの、長男は普段から支出が多く、もし大金を預けたら資金を使い込んでしまうのではないか、という懸念があったのです。
信託監督人を設けた具体的なスキーム
そこでこちらのご家族は弊社にご相談に来られ、双方十分に話し合ったうえで以下のような家族信託の設計を行いました。
- 信託財産: 預貯金(実家の売却による現金などを含む)
- 委託者: 母(自分が健康な間は受益者として財産を使える)
- 受託者: 長男(母の判断能力が低下した場合、代わりに財産管理を行う)
- 受益者: 母(健在時)・長女(母の死後)
- 信託監督人: 行政書士(第三者専門家)
この体制により、長男は受託者として財産を管理するものの、信託監督人が定期的に帳簿や支出内容をチェックし、不正な流用がないかを監視できるようにしました。
まとめ
家族信託は、高齢の親や判断能力に不安のある受益者の財産を守りながら、柔軟な運用を可能にする優れた制度です。しかし、受託者が信頼できる人物だとしても、うっかり管理を誤ってしまったり出来心から金銭を流用してしまったりするリスクが完全になくなるわけではありません。
こうした不安が少しでもある場合、信託監督人を選任することが有効な対策となります。身内の誰かではなく、信託契約に詳しい公平公正な第三者(専門家)に依頼することで、より客観的・専門的な視点による監督が期待できるでしょう。
もし「家族信託を検討しているが受託者の不正が心配」「第三者を交えた管理体制を作りたい」といったお悩みがある場合は、ぜひ弊社の無料相談をご利用ください。早めに最適なスキームを構築し、安心できる家族信託を実現しましょう。










