高齢者のひとり暮らしが増加する現代、「寂しさを紛らわしたい」「認知症予防につなげたい」との思いからペットを飼い始める方が増えています。実際に、ペットと暮らすことで認知症リスクが抑制されるといった研究結果もあるため、心理面だけでなく身体面にもよい影響があると考えられています。
しかし、高齢になってから新たにペットを迎えるには、自分の健康状態や生活環境、そしてペットの寿命と将来をしっかりと見据える必要があります。万が一、自分が長期入院になったり施設に入らざるを得なくなったりしたとき、ペットの行き先はどうなるでしょうか。
ここでは、高齢者がペットを飼う際の注意点と家族信託契約を活用した「ペットの将来の守り方」について説明していきます。
ペットを飼ううえで高齢者が心得るべきポイント
環境省が公表する資料によると、高齢者がペットを飼う前に以下の点をチェックすべきだとしています。
- 毎日世話をする時間は確保できるか:散歩やトイレ掃除、食事の準備など
- 飼育可能な住居・環境にあるか:賃貸の場合、ペット可物件かどうか要確認
- ペット飼育に必要な体力は十分か:犬の場合、散歩やしつけに体力を要する
- 継続的な費用負担は大丈夫か:食費や医療費、ワクチン接種、グルーミング費用など
高齢になるほど体力や経済状況が変わることも考えられるため、これらの確認は欠かせません。
犬を飼う場合・猫を飼う場合の注意点
ペットの大半を占める犬・猫を飼育するうえでの注意点を確認しておきましょう。
犬の飼育の注意点
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- 毎日の散歩が必要
- しつけ(吠え防止や噛みつき対策)
- 狂犬病予防注射・飼い犬登録(自治体へ届け出)
猫の飼育の注意点
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- 室内飼育が基本
- 爪とぎ対策や上下運動のためのスペース確保
- トイレのこまめな清掃、不妊去勢手術の必要性
これらは高齢者であっても変わらない飼育義務であり、体力や金銭面で無理をせず続けられるかを事前に考えることが大事です。
高齢者だからこそ必要な「もしもの時」の備え
飼い主が高齢であることで、本人およびペットにどのような状況が起こりうるか確認していきましょう。
- 飼い主の長期入院や施設入所:飼い主がいなくなることで、ペットの世話が滞る
- 飼い主の死亡後ペットを引き取る親族がいない:遺されたペットが行き場を失う可能性
- ペットの高齢化:抜け毛や病気、足腰の衰えに対処できる体力や余裕が必要
具体的な対策例
上記のような問題への対策例として、元気なうちから次のような備えを整えておくことがとても大切です。
一時預かり先の確保
家族や友人、ペットホテルなど候補を決めておく
かかりつけ動物病院の選定
定期的に健康チェックやワクチン接種を行い、いざというときにも相談しやすい体制を作る
しつけや不妊去勢の実施
無駄吠えや排泄トラブル、繁殖トラブルを防ぐ
ペット健康手帳の活用
病歴や注射履歴、健康状態を記録しておくと、飼い主が不在になったときも対応しやすい
家族信託でペットの将来を守る方法
「自分が世話をできなくなったら、ペットを引き取ってほしい」という希望を叶えるには、ペットの飼育費用と後継者(実際に飼う人)をセットで用意する必要があります。家族信託契約を利用すれば、以下のような仕組みを作ることが可能です。
- 信託財産: ペットの飼育に必要な金銭(飼育費用)
- 委託者: ペットの飼い主(高齢者)
- 受託者: ペットの飼育費用を管理する者(親族や友人など信頼できる人物)
- 受益者: 実際にペットを世話する人(ペットの飼育後継者)
万が一に備えたペット信託
ペット信託を利用する場合、あらかじめ飼育費用を用意して受託者または信託会社などの専門機関に預託する必要があります。
しかし、事前に受託者に必要額を預けておくことにより、万が一飼い主が介護や入院、死亡などでペットの面倒を見られなくなっても、受益者は信託口座から定期的に資金を受け取り、ペットに必要なフード代・医療費・日常ケア費を安定してまかなうことができ、ペットの暮らしが生涯にわたり守られます。
飼い主が認知症や長期入院になった場合
ペット信託では、病気の発症や入院といった事由が発生した時点で、信託契約に定めた条件が発動します。
- 受託者(信託会社・信頼できる家族など)が信託財産を管理開始
- 受益者(実際にペットを飼育する人・団体)がペットを引き取り、
- 定期的に飼育費用の給付を受けながら終生世話を続行
条件が発動したとき、信託財産の管理とペットの引き取りが行われるため、二段構えの準備によりペットの生活を維持することが可能です。
ペットの生活を守るための「2つの信託契約」の形
委託者に万が一のことがあったときの備えとして、家族信託契約を補強し、ペットの将来を守ることもできます。ここでは、2通りのペット信託の形について説明します。
終生飼育契約 × 信託契約
修正飼育契約と信託契約を組み合わせて、ペット飼育と資金管理を分ける方法です。
終生飼育契約
- 動物愛護団体と契約し、飼い主の死亡・長期入院時にペットを引き取り
- 里親探しや施設での生涯飼育を約束
信託契約
- 飼い主が信託口座に飼育費用を事前入金
- 団体は領収書や飼育報告を添えて請求し、受託者から払い戻しを受ける
生命保険 × 信託契約
委託者の預貯金が少なくても、死亡保険金でペットの飼育費を確保できる方法です。
- 生命保険に加入し、信託会社を保険金受取人に指定
- 飼い主が亡くなると、保険金が信託財産として一括受領
- 受益者(動物保護団体や信頼できる個人)が定期給付を受け取り、飼育を継続
ペット信託のメリットと注意点
- メリット
- 高齢者が動けなくなった後でも、飼育費用が確保された状態で後継者がスムーズにペットを引き取れる
- 「ペットが安心して余生を送れる」仕組みを法律上明確に整えられる
- 注意点
- ペットは法律上「物(動産)」とみなされるため、信託契約書にペットと飼育費用がどのように扱われるかを正確に記載する必要がある
- 受託者や受益者が実務をきちんと行ってくれるか事前に話し合う
- 不測の事態(たとえば受託者が先に亡くなるなど)にも対応できるよう契約書に代替受託者の指定などを盛り込む
飼い主が死亡した場合
死亡時は、遺言書や死因贈与契約に組み込んだ「ペットの飼育を引き受ける」条項が効力を持ちます。
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受託者は遺言執行者や信託会社として、預けられた飼育費用を厳格に管理
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受益者(里親や動物保護団体など)がその資金を受け取り、ペットの健康管理・食事・医療を担う
こうした“遺言×信託”の連携で、相続開始後もスムーズに飼育体制へ移行できます。
ペット信託で最も懸念されるのは、受託者や受益者が契約どおりに資金をペットの飼育へ充当し、適切なケアを継続してくれるかという点です。こうした不安を解消し、信託を確実に実行してもらうためにも、できるだけ次のような仕組みの整備も検討したいところです。
負担付贈与や死後事務委任契約との比較
家族信託以外にも、「ペットを引き取ること」を条件として財産を贈与する「負担付贈与」や、死後の諸手続きを第三者に委任する「死後事務委任契約」を活用する方法もあります。
【負担付贈与】
ペットの飼育を義務とする代わりに財産を贈与するが、贈与税の発生や贈与者が自分の財産を失うというリスクがある。
【死後事務委任契約】
飼い主の死後、葬儀や遺品整理などを依頼する制度だが、ペットが長期間生きる場合の継続的な飼育費用管理には家族信託ほど向いていない。
状況によっては、家族信託+死後事務委任契約を組み合わせたり、家族信託+負担付贈与を適切にカスタマイズしたりすると、より柔軟にペットと高齢者双方の生活を守れるようになります。
まとめ
ペットは飼い主の「生きがい」になる反面、医療費やしつけ、老後の介護など負担が大きくなることも理解しておきましょう。高齢者は特に、自分が先に弱ってしまった場合や亡くなった場合に備え、周囲への理解と具体的な契約上の対策を整えておくことが大切です。
当行政書士法人では、ペットと暮らす高齢者の方が「家族信託契約」や「死後事務委任契約」を上手に活用して安心して暮らせるよう、個別のご相談を承っております。無料相談もございますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。










