任意後見契約は、元気なうち(判断能力がある状態)に信頼できる相手へ将来の財産管理や生活支援を委任し、後日、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで発効する仕組みです。しかし、実際には「本人の判断能力が低下したかどうかをどのように判定するのか?」「認知症疑いの場合に契約が有効になるのか?」など、具体的な基準は法律上はっきり定められていません。
ここでは、任意後見契約における判断能力低下の測り方や認知症との関係、もし契約時点で判断能力に問題があった場合の対応方法などについて説明していきます。
なぜ判断能力の基準が問題になるか
任意後見契約は本人の判断能力が十分であるうちに締結できるものです。元気なうちに備えておき、いざ本人の判断能力が低下した時点で契約が発効し本人を助けます。
では、「判断能力」はなぜ重要視されるのでしょうか。
任意後見契約の発効要件
任意後見契約は、契約自体は判断能力があるうちに公正証書で締結するものの、実際に効力を生じるのは本人の判断能力が低下した時点で家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任申立てを行い、裁判所が選任を決定したあとです。
- 契約時点:本人はしっかり判断できる
- 後日:本人の判断能力低下→家庭裁判所が監督人を選任→契約発効
法律では「本人の判断能力が衰えた」と判断する明確なラインが示されていないため、実務上、申立のタイミングに迷うケースが出てきます。
判断能力を証明する資料は法律で指定されていない
任意後見契約に関する法律には「○○の診断書を出すべき」などの規定がなく、本人の判断能力低下をどう立証するかは各当事者や裁判所の判断に委ねられています。そのため、医療機関の診断書や家族や公証人の見立てを総合して判断するのが一般的です。
判断能力低下を測る主な指標
本人の判断能力が低下したことをどのようにして理解し、客観的に示すことができるのでしょうか。
医学的判断:認知症検査・診断書
認知症が疑われる場合、医療機関(精神科・神経内科など)で認知機能検査やMRIスキャンなどを行い、医師の診断書を発行してもらうことがあります。アルツハイマー型認知症や血管性認知症など診断が確定すると、「財産管理や契約行為を理解する能力が衰えている」と認定される可能性が高まります。
- 診断書の利用方法:
- 家庭裁判所への任意後見監督人選任申立時に添付する
- 任意後見人が、必要に応じて医療機関や福祉施設との打ち合わせで提示する
日常生活状況や経済管理能力
認知症の有無だけでなく、普段の生活を維持できているか、財産の内容や金銭のやり取りを理解しているかなども重要な指標です。具体的には下記の行動を見て判断する場合があります。
- 公共料金や家賃の支払い管理
- 通院や服薬の自己管理
- 銀行からの引き出しや預金通帳の記帳
- 施設や介護サービスとの契約手続き
こうした事柄を本人が自力でできなくなってきたかどうかが大きなサインになるでしょう。
公証人の確認
任意後見契約公正証書を作成した際、公証人も本人との面談を行い、契約内容を理解できているかをチェックします。ただし、これは契約時点の判断能力評価に過ぎず、後日判断能力が衰えてきたかどうかまでは直接関与しません。
認知症と任意後見契約の有効性
本人が認知症の症状を見せ始めた場合、任意後見契約の有効性はどう判断されるのでしょうか。
契約締結時の判断能力
契約時にすでに認知症が進行しており「財産管理や契約の意味を理解できなかった」と証明された場合、任意後見契約自体が無効と判断される恐れがあります。
対策として契約前に以下のことを準備しておくことが大切になってきます。
- 契約締結前に医療機関で診察してもらう
- 契約に臨む際、公証人に診断書(軽度認知症であっても契約理解は可能だとする旨)を提示
こうすることで、後に疑義が生じても「契約締結時には十分な判断能力があった」と主張しやすくなります。
契約発効後の認知機能変動
契約発効後(任意後見監督人がついたあと)、本人の認知症状がさらに進行しても、任意後見契約は継続的に有効です。もし認知症が重度になり任意後見だけでは保護が十分でない場合、法定後見制度に移行するパターンもあります。
契約締結後に判断能力に不安を持った場合
任意後見契約の締結後、本人の判断能力低下に不安を覚えた場合は、次のように対応したり法定後見に切り替えたりすることも大切です。
複数の診断書を取得
- 1人の医師の見立てだけでは不十分なら、他科や専門医を受診し客観性を増す
裁判所への照会
- 家庭裁判所に任意後見監督人選任申立を検討する段階で、事前に相談して方針を確認する
法定後見の活用
- すでに判断能力が大きく失われて契約行為の効力が疑わしい場合、法定後見(後見開始)に切り替えるほうが安全
契約締結前にできる予防策
任意後見契約は本人の判断能力に問題がないことが前提となっていますから、あらかじめ対策を行い、判断能力について後から疑義が生じないようにすることも大切です。
医師の診察
- 診断書を取得し、契約当時の判断能力を証明
公正証書作成時の入念な打ち合わせ
- 公証人や専門家(弁護士・行政書士)と協議し、本人が契約内容を理解しているか確認
家族や信頼できる人との連携
- 日常の様子を記録し、判断能力の微細な変化を把握しておく
まとめ
任意後見契約が正常に発効するためには、契約時点の本人の判断能力が確実にあったことと、後の判断能力低下が客観的に確認できることが重要です。法律上、判断能力の低下を示す統一基準はなく、下記のような対策が実務ではよく採られています。
- 契約時の能力証明
- 事前に医師の診断書を用意し、公証人にも提示する
- 契約発効時(監督人選任申立時)の判断
- 家庭裁判所は診断書や周囲の証言、本人の生活実態を踏まえ総合判断
- 認知症疑いがあるなら法定後見を検討
- 任意後見契約が無効となるレベルの能力低下なら、後見開始の審判(法定後見)に切り替える
- 家族の協力
- 日頃から記録を取り、本人の財産管理能力や認知機能の変化を察知しておく
任意後見契約を結ぶうえで最も怖いのは、「契約が無効だった」と後で判断され、本人が本当に困っているときに発動できない事態です。ご不安をお持ちの方は、早めに弊社の無料相談をご利用いただき、適切な対策を行うことをおすすめします。










