高齢の親が将来の認知症リスクに備えて「家族信託」を利用し、子どもに財産管理を託すケースが増えています。ところが、家族状況の変化や受託者への不信など、何らかの理由で「家族信託を途中でやめたい」と考えることもあるでしょう。
一度締結した家族信託契約を途中解除するには、信託法や契約内容に基づく正当な根拠と手続きが必要です。
ここでは、家族信託契約を途中でやめるための契約解除理由や家族信託契約終了の手続きについて説明していきます。
家族信託を途中でやめることができる「契約解除の理由」とは
家族信託契約を途中で終わらせることができるケースは3種類あります。
【1】委託者と受託者が合意したケース
家族信託契約は、委託者と受託者が合意して締結するものです。したがって「両者が十分に話し合い、契約解除に合意している」という状態であれば、契約を途中で解約することが可能です。ただし、合意形成が難しくなる以下のようなケースでは注意が必要です。
委託者が認知症になると契約解除が困難に
委託者が意思能力を失った場合、契約解除の「合意」自体が成立せず、契約解除が困難となる点に注意しましょう。家族信託契約の解約には当事者間の合意が必須ですから、解約の必要性があるなら、委託者の意思能力が失われる前に早めに話し合いをすることが大切です。
受益者が別にいる場合はその利益を考慮する
受益者と委託者が別人の場合、その利益も考慮する必要がある点に注意しましょう。
【2】家族信託契約に定めた「終了事由」が発生したケース
家族信託契約を結ぶ際、あらかじめ「どのような条件が起こったら契約終了とするか」を定めておくことが可能です。たとえば以下のような終了事由を設定できます。
- 委託者または受託者が死亡したとき
- 受託者・受益者が死亡したとき
- 受益者が認知症から回復し、財産管理が不要になったとき
- 委託者・受託者・受益者の合意(契約書に明文化)
契約書に終了事由が明記されていれば、その事由が生じた時点で自動的に信託終了とみなされます。逆に終了事由を明記していない場合、契約途中での終了はハードルが高くなるでしょう。
【3】「特別の事情」や「公益の確保」を理由に裁判所が命じるケース
家族信託契約に終了事由が明記されていない場合でも、「特別の事情」「公益の確保」といった要件を満たせば、裁判所が申立てに応じて信託終了を命じることがあります。
特別の事情とは
- 受託者と受益者の関係が著しく悪化し、信託が続くと受益者の利益を害する場合
- 受益者が認知症から回復し、財産管理の必要がなくなった場合
- その他、契約続行が受益者の不利益になると判断される場合
公益の確保とは
- 信託契約が脱税・債務逃れなど「悪用」されている場合
- 受託者が法的規制を著しく逸脱し、刑罰相当の行為を繰り返すなど、信託を存続させると社会的に深刻な影響がある場合
家族信託終了(やめた)後の清算手続きについて
家族信託契約が終了したら、通常は「清算受託者」(多くは受託者本人)が中心となり、信託財産を整理する手続きが必要になります。主な業務内容は以下のとおりです。
未収金や債権の回収
- 収益不動産の家賃未払い分などがあれば清算受託者が回収
- 口座に残っている信託金銭を解約して回収
未払い債務の弁済
- 信託財産に関わるローン残債や医療費などの支払いを実行
残余財産の帰属
- 上記の収支を清算し、残った財産を帰属権利者に渡す
- 帰属権利者は家族信託契約のなかであらかじめ指定しておく
契約終了時の最終報告
- 清算受託者が最終的な清算報告書を作成し、関係者に報告
信託終了後、すぐに財産が委託者・受益者に戻るわけではありません。未収金や未払い債務の処理が終わって初めて、残った財産を帰属権利者へ引き渡します。
信託財産である不動産の名義変更と信託抹消登記について
信託財産に不動産が含まれている場合、信託契約の解除に伴って以下のような手続きが必要になります。
信託不動産の名義変更
信託期間中、不動産の名義は受託者とされ、「信託登記」が行われています。契約終了後は不動産を帰属権利者の名義に変更し、合わせて「信託抹消登記」を進める必要があります。具体的には以下の手順となります。
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- 所有権移転登記:受託者→帰属権利者へ名義変更
- 信託抹消登記:「信託」という登記事項を抹消する
令和6年の法務省通知による取り扱いの変化
以前は、受託者個人が単独で信託登記を抹消するかどうか、法務局によって扱いが異なるケースがありました。しかし、令和6年(2024年)1月10日付の通知により、受託者が帰属権利者となる場合などでも単独で以下の手続きができるようになりました。
- 受託者かつ帰属権利者を受益者とする変更登記
- 信託抹消登記(固有財産となった旨の登記)
これにより、不動産登記の現場での混乱解消が期待されています。
家族信託契約をやめた後にかかる税金について
信託契約が終了した場合、契約内容にしたがい信託財産は帰属権利者に移転することになります。このとき、状況により帰属権利者への課税状況が変わってきます。
帰属権利者が受益者の場合は非課税
家族信託が終了し、信託財産を受益者が取得する形で完了する場合は、財産の実質的な移転が起こらないため「非課税」となります。最初から受益者のための財産という位置づけだからです。
帰属権利者が別人の場合は課税
信託終了時の受益者が帰属権利者ではない場合、贈与税の対象となります。また、「受益者の死亡によって信託が終了し、残余財産が帰属権利者に渡る」場合は相続税の対象です。事前に税理士などの専門家へ相談し、最適な契約設計を行いましょう。
まとめ
家族信託は、親の認知症リスクや相続対策に有効な手段ですが、契約途中で解除を検討する場面もゼロではありません。その場合は、契約書に定めた終了事由の有無・委託者と受託者の合意の可否・特別の事情や公益の確保を理由とする裁判所命令など、法的根拠や正当性があることを確認しましょう。
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