日本では高齢化とともに相続の形態も多様化し、相続人のなかに障害者が含まれるケースも増えています。障害の有無にかかわらず誰もが安心して生活できるようにするためには、障害者を含む家族構成を前提とした「生前対策」が欠かせません。

 

相続の手続きを進める際、障害者本人の意思能力が重要なカギになります。意思能力に問題がなければ特別な対応は不要ですが、もし意思能力が欠けていると判断された場合には、成年後見制度をはじめとする法的サポートを受けなければなりません。

 

また、相続税の計算においても「障害者控除」という優遇制度があるため、これを適切に活用することで相続税の負担を減らせる可能性があります。

 

ここでは、障害者の相続人について備えておくべき生前対策や活用できる制度などについて説明していきます

 

相続手続きにおける「障害者の意思能力」

相続が開始した際、相続人は遺産分割協議や各種書類への署名・押印といった「法律行為」を行うことになります。これらの行為には当事者の判断能力、つまり意思能力があることが必要であるため、障害者の相続手続きにおいては次のような点が特に問題となります。

 

遺産分割協議に参加できるかどうか

障害者本人が法定相続人である場合、自らの判断で遺産分割協議に参加し、合意形成に加わる意思能力があるか否かが問われます。

 

遺言書の作成や内容確認ができるかどうか

生前に遺言書を作成する場合や、相続開始後に遺言内容を確認・執行する場合、本人がその内容を理解し納得できる状態であるかを慎重に見極める必要があります。

 


障害者本人が意思能力を備えているかどうかは、医師の診断や日常生活状況の様子など、多角的な要素によって総合的に判断されます。障害の種類や程度によっては日によって体調や判断力に波があるケースもあるため、「絶対に問題ない」と思い込むのではなく、早めに医師や相続の専門家に相談することが重要です。

 

障害者が法定相続人になる場合は早めの手続きを

相続税の申告期限は被相続人(亡くなられた方)が死亡した日から10ヶ月以内です。

 

意思能力に疑義があり、成年後見制度の利用を検討する場合は、家庭裁判所への申し立てや医師の鑑定などに相応の期間がかかります。そのため、遅くとも相続開始後すぐか、できれば生前から後見制度利用の準備や診断書の取得をしておくことが望ましいでしょう。

 

相続手続きをスムーズに進めるためには、早めの準備がトラブルを避けるカギとなります。

 

意思能力が不十分な場合の成年後見制度

障害者本人に十分な意思能力がない場合は、原則として「成年後見制度」を利用し、後見人に相続手続きを代理してもらう必要があります

 

成年後見制度について

成年後見制度には大きく分けて法定後見と任意後見がありますが、障害者本人がすでに意思能力を欠いている状態では「法定後見制度(後見・保佐・補助)」を使うのが一般的です。

 

  • 後見:日常生活の判断能力を欠く状態
  • 保佐:判断能力が著しく不十分な状態
  • 補助:判断能力が不十分な状態

 

いずれの場合も、家庭裁判所が必要と判断すれば医師に「鑑定」を依頼し、本人の意思能力を医学的に判定します。鑑定費用はおおむね10万円~20万円程度かかるとされ、手続き完了までに数ヶ月を要することがあります

 

成年後見人選任の流れ

法定後見制度を利用して相続手続きを進める場合の大まかな流れは以下のとおりです。

 

1.家庭裁判所への申し立て

以下の必要書類を揃えて家庭裁判所に提出します。

    • 申立書
    • 医師の診断書
    • 収入印紙(申立手数料、登記手数料)
    • 郵便切手
    • 本人の戸籍謄本 など

 

2.家庭裁判所による審理・鑑定

裁判所は書類審査や面談を行い、必要に応じて医師による鑑定を実施することもあります。鑑定結果とあわせて総合的に判断し、後見人を選任します。

 

3.後見人による相続手続き代理

法定後見人が正式に選任されたら、遺産分割協議への参加や各種手続き書類への署名・押印などを障害者本人に代わって進めることが可能になります

 

成年後見制度を利用することで、障害者本人が意思能力に欠ける場合でも適切に相続手続きを完了できます。ただし、手続きそのものに時間と費用がかかるため、早めの対応が肝心です。

 

相続税の障害者控除とは?

障害者が遺産を相続または遺贈によって取得した場合、「障害者控除」を活用できる可能性があります。これは相続税の計算を行う際、以下の金額を差し引ける制度です。

 

  • 一般障害者

(85歳–相続開始時の年齢)×10万円(85歳 – 相続開始時の年齢) × 10万円

  • 特別障害者

(85歳–相続開始時の年齢)×20万円(85歳 – 相続開始時の年齢) × 20万円

 

「一般障害者」と「特別障害者」は身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の等級などによって分類されます。たとえば、身体障害者1級・2級を持つ方や精神障害者保健福祉手帳1級を持つ方は特別障害者となり、控除額が大きくなるのが特徴です。

 

障害者控除を受けるための要件

障害者控除を適用するには以下の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 本人が相続または遺贈により財産を取得したこと
  2. 相続開始時点で本人が障害者であること
  3. 本人が居住無制限納税義務者()であること
  4. 障害者本人が法定相続人であること
  5. 障害者本人が85歳未満であること

※居住無制限納税義務者:出生から相続開始時まで日本国籍を有し、かつ日本国内に住所を持つ人のこと

 

障害者の方に財産を相続させる場合、障害者控除の適用によって相続税を抑えられるケースがあります。実際に控除が認められるかどうかは、手帳の等級や裁定時の年齢などによって判断が変わるため、事前に税理士をはじめとする専門家へ相談するのが安心です。

 

障害者の相続人がいるときの生前対策

障害者を含む家族が安心して暮らせるようにするためには、生前のうちから複数の方法を組み合わせて備えることがポイントです。以下では代表的な対策である「家族信託」「遺言書」「任意後見制度」について詳しく解説します。

 

家族信託の活用

家族信託は、「信頼できる家族」に財産管理を託し、受益者(利益を受け取る人)の生活や金銭管理を継続的にサポートする仕組みです。障害者の相続人がいる場合、次のように設定するケースがよくあります

  1. 委託者:障害者を支援する親(または祖父母など)
  2. 受託者:信頼できる兄弟姉妹など(信託財産を管理する人)
  3. 受益者:障害者本人(信託財産から利益を受ける人)
  4. 信託財産:金銭や不動産など
  5. 帰属権利者:障害者が亡くなった後に財産の清算を受ける人

 

家族信託を活用することで、親が死亡または認知症になった場合でも、受託者が引き続き障害者の生活費を支払ったり住まいを確保したりできます。ただし、家族信託には身上監護権(介護サービス契約の締結など)が含まれないため、障害を持つ家族に介護や療養看護が必要なときは、別途成年後見制度を検討する必要があります

 

遺言書の作成

障害のある子に確実に財産を残したい場合は、生前に公正証書遺言などの形で遺言書を作成しておくと安心です。遺言書があれば、遺産分割協議によるトラブルを避けやすくなるだけでなく、障害を持つ子が確実に相続できるよう内容を指定できます。

 

  • 遺言書で配分を指定:たとえば障害を持つ子に多めの財産を配分するよう指示
  • 付言事項で親の想いを伝える:将来の生活費や介護費用に充ててほしいなどの希望を記載

 

ただし、ほかの相続人の遺留分に配慮した分配を行わないと、遺言内容が争いの火種となる可能性があるため注意が必要です。専門家と相談しながら、法的に有効な遺言書を残すことをおすすめします。

 

任意後見制度

本人が十分な意思能力を持っているうちに、信頼できる人と「任意後見契約」を結んでおくと、将来的に判断能力が低下した場合でも安心して生活を続けられます。障害を持つ子が法定相続人となる場合でも、任意後見人が次のような場面で支援することが可能です。

 

  • 財産管理:日常的な銀行手続きや公共料金の支払いなど
  • 療養看護や施設入所手続き:入院手続きや介護施設との契約代行など

 

任意後見契約を締結すると、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任され、受任者(サポートする人)の行動をチェックします。法律や財産管理の専門家が選ばれることも多いため、不正行為などが行われるリスクを抑えつつ、安心して任せることができます。

 

まとめ

当行政書士法人では、家族信託や成年後見制度、遺言書作成などの生前対策に関するご相談を幅広く承っています。必要に応じて司法書士や税理士など他分野の専門家とも連携し、お客さまの状況に最適なトータルサポートを提供することが可能です。

 

相続人のなかに障害を持つ方がいる場合、早期の相談と準備が何より大切です。無料相談もご用意しておりますので、まずはお気軽にご連絡ください。

 

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