「自分が亡くなったとき、特定の子や孫に財産を渡したい」と考える方は少なくありません。そのようなときに備えて、遺言や生前贈与、家族信託を活用して財産承継の備えを進めるケースもみられます。
ここでは、スムーズな財産承継を実現するための「3つの生前対策」について説明していきます。
【参考例】Xさんの悩み「遺産を特定の子に託したい」
参考事例として、70代のXさんのケースを取り上げてみましょう。
- Xさん:二人の子供あり
- 長男A:音信不通
- 次男B:近所在住でXさんと頻繁に交流
死後の財産承継先は次男に
このような状況下でXさんは、自分が亡くなった後の財産を次男Bさんに残したいと考えています。
次男の妻を対象外に
しかしXさんは、次男Bさんの妻Cさんとは仲が悪く、財産をCさんに渡したくありません。
次男への財産承継後は孫に
また、次男Bさんの娘DさんはXさんと交流が深く、「次男Bさんに何かあれば娘(Xさんの孫)Dさんに財産が渡るようにしたい」と強く願っています。
財産管理は知人に
さらに、Xさんは信頼できる知人Yさんに財産管理を任せたいと考えているため、一般的な相続制度だけでは思うように財産を渡せるかわからない状況にあります。
【方法1】遺言書の活用
遺言書を作れば、自分の死後に誰が財産を受け取るかを指定できます。ただし、遺言書では「二次相続」以降の承継先まで縛ることはできません。たとえば、次男Bさんが相続した財産をその後どう使うか、誰に渡すかはBさん次第であり、Bさんが遺言を残さなければ法定相続どおりに妻Cさんや娘Dさんが継ぐ可能性もあるのです。
遺言書の問題点
遺言書を遺せば、自分の財産をどのように相続させるかを指定することができますが、デメリットも存在します。たとえば子が相続した財産について、将来的に子が亡くなれば配偶者が財産を相続する可能性があり、必ずしも希望通りに財産の承継先を定めて置けるとは限りません。
つまり、遺言書だけでは、二段階先・三段階先の財産承継先を指定できない点が問題なのです。
【方法2】生前贈与の活用
暦年贈与という制度を活用すれば、元気なうちから孫や子に年間110万円ずつ贈与することで、贈与税を回避しながら生前に財産を渡すことができます。しかし、一度に大きな金額や不動産を贈与すると、多額の贈与税が発生する可能性が高いでしょう。
一方、不動産など高額な財産の贈与には相続時精算課税制度が合っているかもしれません。ただし、同制度では、最終的に相続が発生したときにまとめて税額を精算するため、納税タイミングを遅らせるだけに過ぎない点にも注意しましょう。加えて、不動産取得税や譲渡所得税といった別の課税リスクも考慮しなければならないので、自由度は高いとは言い切れません。
生前贈与の問題点
- 贈与税、取得税、譲渡所得税などのコスト負担が増える可能性
- 財産を渡した後、どのように使われるか管理できない
- 特定の子や孫だけに長期的な管理・承継先を指定することは難しい
【方法3】家族信託の活用
遺言書や生前贈与だけでは、Xさんのように「次男Bさんに財産を渡し、Bさんが先に亡くなったら孫Dさんに継がせる。その管理は知人Yさんに依頼したい」といった複数段階の遺産承継や管理を完全にコントロールするのは難しいといえるでしょう。
このようなときは、家族信託を利用して以下のような仕組みの構築も検討したいところです。
家族信託のしくみ
- 信託財産: 委託者(被相続人)の財産のうち、管理を任せたい分を「信託財産」として切り出す
- 委託者: 財産を託す本人
- 受託者: 財産を管理・運用する人(親族や信頼できる第三者、あるいは専門家)
- 受益者: 信託財産から利益(収益や分配)を得る人
- 帰属権利者: 信託が終了する際(受益者の死亡時など)に財産を最終的に受け取る人
2世代先への財産承継も可能
財産の管理を目的とする家族信託では、「信託財産」の管理・運営を受託者が行い、受益者が利益を享受します。たとえば、「父が死亡後に次男Bさんを受益者とし、次男Bさんがさらに亡くなった場合に孫Dさんに財産が帰属する」という契約を組むことが可能です。
信託監督人の設定で不正回避
受託者がきちんと信託財産を運用しているかをチェックしたい場合、信託監督人を別途設定すると安心です。専門家(行政書士や弁護士)が就くケースが一般的で、不正やミスを防止できます。
【一般的事例】Xさんの家族信託スキーム
参考事例として挙げた「Xさんのケース」について、家族信託の設計を当てはめてみましょう。
- 委託者: Xさん(財産の所有者)
- 受託者: Yさん(信頼できる知人)
- 受益者: Bさん(相続人)
- 終了事由: Bさんの死亡(Bさんが先に亡くなる可能性を考慮)
- 帰属権利者: Dさん(Bさんの推定相続人)
家族信託と遺言書の併用
Xさんの死後、家族信託が始まるようにしたい場合は、遺言書に「財産を家族信託で知人Yさんに管理させる」旨を明記する方法が考えられます。Xさんが生存中に家族信託を開始しても構いませんが、本事例では「Xさん死亡時点で発動する」タイプを選択しました。
Xさん死亡により家族信託が開始する場合のポイント
- 受益者が存命中:受託者Yさんが財産を管理し受益者Bさんのために運用収益などを分配
- 受益者の死亡時:信託が終了し、残余財産は帰属権利者Dさんに渡る
- 遺留分への配慮: 長男Aさんにも最低限の相続分を考慮して一部を残す(遺留分対策)
家族信託が機能する流れ
上記の設計では、次のことが可能になります。
- Xさんの死亡で遺言が効力を発揮→家族信託が開始し、知人Yさんが「信託財産」を管理
- 次男Bさんが受益者として利益を得る→知人Yさんは不動産や預貯金を運用し、次男Bさんの生活費や必要経費を補う
- 次男Bさん死亡時に信託終了→最終的に孫Dさんが帰属権利者として財産を相続
こうしたスキームにより、次男の妻Cさんに財産を渡したくないというXさんの希望や、孫Dさんにだけ承継させたいという思いを、契約段階でしっかり反映できます。
まとめ
「誰が相続するか」だけでなく、「相続人が亡くなったあとも財産を守りたい」「相続人の配偶者には渡したくない」といった複雑な希望がある場合、遺言書や生前贈与だけでは対応が難しいのが現実です。
一方、家族信託を活用すれば、財産を相続財産から切り離し、第三者(受託者)に管理を任せ、特定の子・孫に利益を得させ、受益者の死亡時にはさらに次の帰属先を指定する、といった柔軟な設計が可能です。
必要に応じて、生前贈与や相続時精算課税制度を部分的に利用しながら家族信託を組み合わせると、税務対策も行いやすくなります。ただし、専門家のアドバイスを受けずに進めると、贈与税や不動産取得税などの負担が増えるケースもあるため注意が必要です。
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