日本では、結婚届を出さないまま事実上夫婦として暮らす「内縁関係」が広く存在します。しかし、内縁関係は法律上の「配偶者」とは異なり、原則として相続権が認められていません。「長年連れ添った内縁の妻(夫)がいるが、自分が亡くなったときに生活を守ってあげたい」という思いがあっても、法定相続人でなければ財産を承継する権利はないのです。

 

遺言書を書いて遺贈する方法もありますが、より柔軟に財産承継の流れを作りたい場合には、家族信託を活用する選択肢があります。

 

ここでは、内縁の妻に財産を残し、その後の生活保障を家族信託で実現した事例について説明していきます

 

法定相続人ではない「内縁の妻」に財産を残す難しさ

夫婦のように暮らしながら法的に有効な地位を得ていないため、内縁の妻には配偶者と同様の権利が認められていません。法定相続人にもなれないことから、内縁の妻に財産を遺すことは簡単ではないのが実情です。

 

内縁関係は法的配偶者ではない

法律上の夫婦(入籍済み)の場合、配偶者は法定相続人として相続権を有します。しかし、内縁関係では戸籍上の婚姻関係が存在しないため「配偶者」とはみなされません。その結果、以下のような問題が生じます。

  • 遺言書がなければ内縁の妻(夫)は一切相続できない
  • 法定相続人としての権利がないため、遺産分割協議でも内縁の妻(夫)は交渉に参加できない

 

遺言書だけでは不十分な場合

内縁者を守るために、遺言書(公正証書遺言など)で「全財産を内縁の妻に遺贈する」と指定することは可能です。しかし、遺言には以下のような限界があります

 

  • 遺言の効力は遺言者が亡くなったときだけ
  • 内縁の妻(夫)も後日亡くなった場合、その遺産の行方をどうするか別途で考える必要がある
  • 遺産の管理や運用を長期的にコントロールすることが難しい

 

こうした問題を総合的に解決し、「自分が亡くなった後は内縁の妻を生活面で守り、さらにその妻が亡くなったときには財産を〇〇に譲る」といった多段階の財産承継を可能にするのが家族信託なのです。

 

内縁の妻に財産を遺し生活を保障した事例

  • 70歳男性(委託者)
  • 60歳内縁の妻(子どもや身寄りがない)
  • 男性に子どもはおらず兄弟姉妹が法定相続人になる可能性がある
  • 内縁の妻に自分の財産を引き継がせ、その後は自治体に寄付したい

 

この男性は、「自分の死後は全財産を内縁の妻に渡し、内縁の妻が亡くなったら自治体へ寄付する」という流れを実現したいと考えました。ところが、内縁の妻は法定相続人ではなく、また遺言書だけでは二段階にわたる財産承継をコントロールしにくいという課題があります。そこで、信託銀行に相談し、家族信託の仕組みを利用することを決断したのです。

 

家族信託のスキーム

本事例では、男性が信託銀行を受託者として契約を結び、以下のように設計しました。

  1. 委託者(70歳男性):元気なうちは財産を自ら管理しつつ家族信託の枠組みを作る
  2. 第一受益者(70歳男性):自身が存命中は自ら受益者となり財産から生じる利益を得る
  3. 第二受益者(60歳内縁の妻):男性の死亡後、内縁の妻が受益者となり毎月の生活費給付などを受け取る
  4. 受託者(信託銀行):男性が亡くなった後は財産管理を引き継ぎ、内縁の妻に生活費を払う
  5. 最終的な帰属先:内縁の妻も亡くなったときには信託契約を終了し、残余財産を自治体へ寄付する

 

上記の流れにより、男性内縁の妻自治体への二段階承継が確実に行われます。仮に男性が何らかの理由で遺言を変更しても、家族信託契約で定められたルートが優先され、希望どおりの財産承継が継続されます

 

家族信託が持つ優位性

遺言書で内縁の妻に全財産を遺贈することは可能です。しかし、遺贈後の財産管理や処分までは指定できても、さらにその次の承継先を確実にコントロールする仕組みを作るのは困難であると考えられます。

 

家族信託であれば、契約時に「第二受益者が亡くなったら財産を〇〇へ渡す」と設定することがで、その効力は一貫して続きますので、財産承継については遺言書よりも安心して自分の意思を実現しやすいといえるでしょう。

 

相続トラブルを回避しやすい

遺言書で「内縁の妻に財産を渡したい」という意思表示をしても、法定相続人(兄弟姉妹など)が異議を唱えてトラブルに発展する恐れがあります。

 

しかし、家族信託を使った財産承継は「遺産ではなく信託財産」という扱いになるため、遺産分割協議の対象から外れる可能性が高いです。結果的に相続争いを回避しやすくなります。

 

生前の財産管理もスムーズ

家族信託では、委託者が死亡する前から受託者や信託銀行が管理・運用を始められます。そのため、万が一委託者が認知症になったり判断能力が低下したりしても、財産凍結を避けながら継続的に運用・管理できる点も大きなメリットです。

 

遺言書と家族信託の比較

遺言書と家族信託は、その機能においてどのように異なっているのでしょうか。

 

遺言書を残した場合の問題点

内縁の妻に向けて遺言書を遺したとしても、次のような問題点が生じることが考えられます。

 

内縁の妻の死後の帰属が決まらない

    • もし内縁の妻に子どもや親族がいなければ、彼女が亡くなった後の財産は「相続人不在」となり、最終的には国庫に帰属する場合がある

 

相続人とのトラブルリスク

    • 内縁関係を認めない法定相続人が遺贈に異議を唱える可能性が残る

 

遺言執行の一回性

    • 遺言は、遺言者が死亡した時点で一度きりの効力となり、その後の財産管理や連続的な承継には対応しにくい

 

家族信託を用いた多段階承継

一方、家族信託であれば、第一受益者の死亡後は第二受益者が受益権を引き継ぎ、さらに第二受益者が死亡したら第三受益者へと移るという多段階の承継が契約書で明確に設定できます。この「連続性」が、内縁の妻やそのさらに先の財産処分を望むケースに非常に適した方式だといえるのです。

 

家族信託を利用する際の注意点

内縁の妻に財産を遺したい場合は、遺言書よりも家族信託の方がメリットが大きいことがわかりますが、一方で注意しなければならない点も存在します。特に内縁の妻と法定相続人との関係性には十分配慮して家族信託を設計する必要があるでしょう。

 

遺留分への配慮

家族信託で財産を第三者(ここでは内縁の妻)へ渡す場合でも、遺留分を持つ法定相続人(子、直系尊属等)がいる場合は注意が必要です。受益権が「みなし財産」とされて遺留分侵害額請求の対象となる可能性もあり、事前の専門家相談が欠かせません。

 

家族や関係者との合意形成

特に内縁の妻を優遇する場合、残された親族(兄弟姉妹など)の理解を得られないと対立する恐れがあります。家族信託の設計段階から、関係者への説明や合意形成をしっかりと行っておくことが望ましいでしょう。

 

専門家への相談でスムーズに

家族信託契約においては、契約書の内容・税務面・法律面など複雑な要素が絡み合います。行政書士や司法書士、弁護士などの専門家に相談しながら設計すれば、想定外のリスクを最小限に抑えつつ、希望どおりの財産承継を実現しやすくなります。

 

まとめ

いくら長年連れ添っていても、内縁関係では法定相続人になれず、財産を承継するのは容易ではありません。さらに、遺言書だけでは第二段階・第三段階へと続く財産移転を管理することが難しいケースもあります。そんなときこそ、家族信託という柔軟な仕組みが大きな力を発揮します。

 

内縁関係の相手方への財産承継を検討している方は、ぜひ弊社の無料相談をご利用いただき、ご事情をお聞かせ下さい。法的リスクや手続きの複雑さを踏まえつつ、最適なスキーム(設計)を提案させていただきます。内縁のパートナーの生活保障も、あなた自身の意思を尊重した財産の使い道も、どちらも実現しやすくなるようお手伝いできれば幸いです。

 

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