自分が亡くなった後、財産を誰にどのように渡すか。その方法として思い浮かぶのは「遺言書による遺贈」ですが、生前の契約にもとづき贈与者の死亡時に財産が移転する「死因贈与」という制度もあります。

 

死因贈与は遺贈(遺言による贈与)と似ていますが、贈与契約にもとづく仕組みであるため、受贈者の合意が必須などの特徴があります。

 

ここでは、遺贈と死因贈与の違いやメリット・デメリットについて説明していきます

 

遺贈と死因贈与の違い

日本の民法では、相続は配偶者や血族相続人など法定で定められた相続人の間で行われることになっています。たとえ親しい友人や団体であっても相続人にはならないため、通常の相続手続きでは財産を渡せません。

 

そんなときに活用できるのが、遺贈や死因贈与といった方法で、それぞれの大きな違いは「遺言書を使うか」「生前契約するか」といった点にあります。

  1. 遺贈:遺言書に「〇〇に△△を遺贈する」と明記する
  2. 死因贈与:生前に契約を結び、死亡したときに財産が移るよう約束する

 

【遺贈】遺言書で遺産承継先を指定する方法

遺贈とは、遺言書による一方的な意思表示で、相続人以外の人や法人へ財産を渡せる仕組みです。遺言者(亡くなった人)が「誰に何をどのくらいあげるか」を遺言書に書き込むことで実現します。

 

遺贈は、遺言書を作成するだけで成立しますが、遺留分侵害が起こらないよう配慮が必要です。また、遺言執行者の指定があると財産承継がスムーズに運ぶでしょう。

 

包括遺贈と特定遺贈

遺贈には2つの形式があります:

  1. 包括遺贈:財産の全部または一定割合を譲る(例:「全財産の3分の1Aにあげる」)
  2. 特定遺贈:具体的な財産を指定して譲る(例:「〇〇銀行口座の預金すべてをAにあげる」)

包括遺贈を受けた人(包括受遺者)は相続人とほぼ同じ権利義務を負うのに対し、特定遺贈受遺者は特定の財産のみを取得します

 

遺贈のメリット・デメリット

遺贈のメリットとデメリットについて整理しておきましょう。

 

遺贈のメリット

  • 相手(受遺者)の同意不要。自分の遺言書だけで意思表示可能
  • 遺言書さえ有効なら、形式上すぐに承継が成立

 

遺贈のデメリット

  • 遺言書作成に法的な形式(自筆証書、公正証書など)が必要
  • 遺贈を受ける側が「いらない」と思えば放棄できる
  • 遺言書自体が無効や不備の場合は実現しない

 

【死因贈与】生前契約で財産承継先を指定する方法

遺言は一方的な意思表示ですが、死因贈与「贈与者(財産をあげる人)と受贈者(財産をもらう人)の合意」が前提で成立する契約です。亡くなったときに贈与が実行される点が特徴です。

 

生前に契約を交わす必要がありますので、できるだけ公正証書で契約書を作成するようにしましょう。また、贈与契約では贈与された財産に贈与税がかかることもありますので、十分注意が必要です。

 

死因贈与は当事者の合意が必要

死因贈与を成立させるには、財産の授受について契約の当事者双方が合意する必要があります

  • 贈与者「私が亡くなったらこの財産をあなたにあげます」
  • 受贈者「わかりました」

契約は口頭でも成立するとされますが、書面化(死因贈与契約書)しておく方がトラブルを防ぎやすいでしょう。

 

死因贈与は相続税の課税対象

一般の生前贈与には贈与税が課せられますが、死因贈与は贈与者の死亡によって財産が移転するため相続税の対象となります。

 

【負担付死因贈与】介護や義務を条件とした財産贈与に

死因贈与契約には「負担付死因贈与」という形もあります。例えば、「私が生きている間、介護をしてくれること」を条件とし、亡くなった後に財産を贈与する、といった仕組みです。

当事者間の合意なので、後から「受贈者が拒否する」リスクが少ない点が特徴的だといえます。また、受贈者が条件どおりの介護等をしなかった場合、契約を取り消すことも可能です。

 

死因贈与のメリット・デメリット

死因贈与のメリットとデメリットについて整理しておきましょう。

 

死因贈与のメリット

受贈者が契約締結時点で同意するため、後から「受け取り拒否される」心配が低い

負担(介護や管理など)をしっかり契約に盛り込める

 

死因贈与のデメリット

相手との交渉・合意が必要

不動産などを贈与する場合、相続ではなく「贈与扱い」となるので税務面で負担が大きい場合も

 

死因贈与契約を結ぶときの注意点

死因贈与契約を結ぶときは、次の点に注意しましょう。

 

書面化しておくこと

死因贈与は書面方式が必須ではありませんが、口頭で約束しただけでは後々トラブルの種になる可能性も考えられます。書面によらない贈与は民法550条にもとづき“いつでも撤回可”となる場合があるため、できるだけ契約書を作成することが大切です。

 

監督・執行の手段をできるだけ明確にすること

遺贈のように「遺言執行者」の制度が法律で定まっているわけではない(準用が可能か争いあり)ため、信頼できる第三者や弁護士に執行や管理を依頼することも検討してみましょう

 

遺留分侵害に注意すること

死因贈与により他の法定相続人の遺留分を侵害した場合、遺留分侵害額請求を受ける恐れがあります。死因贈与契約案を作成する際は、適正な財産評価と調整が必要になってきます

 

税務面に関する検討を行うこと

死因贈与によって得た財産には相続税が課されます。生前贈与した場合と課税状況を比較したうえで最も適切な方法を選ぶことも大切です。また、贈与を行うときは受贈者の納税資金をどう確保するかなど総合的な検討が必要になってくるでしょう。

 

遺贈と死因贈与の違いを比較

項目 遺贈 死因贈与
成立方法 遺言書(遺言者の一方的意思表示) 契約(贈与者と受贈者の合意)
放棄の可否 受遺者は遺贈放棄可能 契約なので一方的放棄は原則不可(合意解除は可)
介護等の負担設定 一方的な意思表示なので、具体的負担設定は難しい 「負担付死因贈与」として双方の合意を条件にできる
年齢条件 遺言書なので15歳以上で自筆・公正証書などが必要 未成年の場合、法定代理人の同意が必要
相手の同意 必要なし(遺言があればよい) 双方合意必須
手続き後の実現性 受遺者が拒否できる(放棄) 受贈者は契約上の義務として拒否が難しい

 

まとめ

相続人以外に財産を譲る方法としての「遺贈」と「死因贈与」にはそれぞれ特性があります。たとえば、一方的意思で設定するなら遺贈が便利ですが、介護や管理の負担を伴う合意が必要なら死因贈与の方が確実性を高められます

 

これらの手段を利用する場合は、法定相続人との関係や遺留分問題、税務面にも注意が必要になってくるでしょう。いずれの場合も、専門家と相談しながら、最適な手法と契約内容を決めるのがトラブルを防ぐコツです。

 

当行政書士法人では、遺言書作成・贈与契約・家族信託など、幅広い相続・財産承継のご相談を承っています。「相続人以外の人に財産をあげたい」というケースでも、遺留分への配慮や書類作成などの総合的なサポートが可能です。無料相談もご用意しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

 

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